第1回 奥の細道より



 『奥の細道』は松尾芭蕉が弟子であった河合曾良と共に,元禄2年3月から およそ半年をかけて東北・北陸を巡った時の紀行文である.芭蕉の作品の 中でも最も知名度が高く,高校古典の教科書などにも使用されている江戸 時代の代表的な紀行文である.有名な「夏草や 兵(つはもの)どもが 夢 のあと」(平泉),「五月雨を あつめて早し 最上川」(新庄)などもこの『奥の 細道』の文中に登場する句である.

さて,今回紹介するのは石川県小松市赤瀬のオパール産地那谷寺(那殿堂 と原色岩石図鑑;益富 には紹介されている)に関する一節である. 残念ながら文中ではオパールそのものについては触れられていないが,奇石  ―すなわち球果を多く含んだ流紋岩のごつごつとした様子ではないだろうか  を述べている.以下が原文.続いて現代語訳.

 山中の温泉に行くほど、白根が嶽あとにみなしてあゆむ。左の山 際に観音堂あり。花山の法皇三十三所の順礼とげさせ給ひて後、大慈大悲 の像を安置し給ひて、那谷と名づけ給ふとなり。那智・谷汲の二字をわかち 侍りしとぞ。奇石さまざまに、古松植ゑならべて、萱ぶきの小堂、岩の上に造り かけて、殊勝の土地なり。

 山中温泉に行く途中で白根が嶽を後ろに見ながら行く。左手の山沿いには 観音堂がある。この寺は花山法皇が西国三十三か所の巡礼をなさった後に、 この地に大慈大悲の佛像を安置され、那谷寺と命名なされたという。この名 は那智と谷汲から二字を分けてお付けになったという。さまざまに不思議な形 の石があり、老松が植え並べられている。萱ぶきの小さなお堂が岩の上に造 られていて、見応えのある景色の場所である。

 もしかしたら古くからこの地のオパールの事が知られていて,松尾芭蕉も灰 色の岩の中の虹色に輝く不思議な石を見たのかも知れないと考えると,僅か な人間の歴史の時間でさえも筆者にとって厚みを持って感じられてならない.

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