60)地学会結成記念巡検 その4―埼玉県大滝村渦ノ沢の燐灰石 Apatite of
Uzunosawa,Ohtaki Village,Saitama Pref..
A.はじめに
大黒坑,石灰沢と採集し,河原で一通り遊んだ後,本日最後の採集地である,
上記渦の沢を目指す.ここは磁鉄鉱や灰鉄輝石に富むスカルンの晶洞中に燐灰石
の結晶が産出することで有名だった産地である.しかし,最近は燐灰石はめっき
り減って「絶産」という話まで聞いたことがある.
ここもY氏に事前に資料をもらい,迷わず産地に辿り着ける… はずだったのだ.
午前中の成果で勢い付いた筆者達にとんでもない事が起こってしまう.頂いた資料に
「孔雀石の付いた転石を追って沢を上がり,壁に当たったら産地」と書いてあっ
たはずなのだが,孔雀石を追っていると,かなり上の方に垂直に軽く10m以上は切り立
った崖のような場所がある.そこで某氏はその「壁」を指差し,「あそこだな」
と一言.全員燐灰石のために登ることで一致.しかしその沢の急なことはかつて
体験したことのレベルである.沢の石は水で濡れているやら,季節柄,落ち葉は
たくさん積もっているし,誰もが「本当にここなのか? 明らかに入り口から遠
い…」と疑念を抱いた頃にようやく「壁」に到着. 「生きてて良かった…」と
ばかりにとりあえず探査をするがない,何もない.
そこは花崗閃緑岩の露頭である.「スカルンがない…よ??」その場で緊急会議が
開かれ,時間的にも状況的にもここにこれ以上いてもダメだと結論が付く.
更に協議した結果,とりあえず来た道を戻ってみようということになり,再び
決死の覚悟で沢を下る.NSさんはもう会話が出来ないくらい高い場所で怖いら
しい.石がないと分かったら途端に怖くなった,と後でコメントされた.
かなり下ったところで,孔雀石を発見する.ふと周りを見渡せば緑色のスカル
ン塊があちこちにゴロゴロしている.ここでやっと分かる.「あ,自分達は資料
にある『壁』を登ってた」と.
気を取り直して採集を始めると,なかなか見応えのある灰鉄輝石や磁鉄鉱は結
構数多くあり,また燐灰石もちらほら観察できる.筆者は2cm程の結晶を見つけ
採集を試みたが,運悪く底面のへき開で割れてしまい,母岩から分離したものを
持って帰った.
B.産地及び交通
<産地>
秩父鉱山は松原・加藤(1982),須藤(1979)などに詳しく紹介されている,
関東を代表する鉱物産地である.産出する鉱物の数は非常に多く,現在でもかな
りの種類の鉱物が採集可能である.また前述のように水酸エレスタド石という新
鉱物も当地から発見されている.当地は典型的なスカルン鉱床であり,昭和中期
まで各種の金属鉱物,珪石を採掘していたが,現在では石灰石の採掘だけが行わ
れています.そのため平日では細い県道で,ダンプとのすれ違いに苦労すること
もあります.
また歴史も古く,甲斐武田氏が金を採掘したとも言われ,江戸時代にはエレキ
テルなどの発明で有名な平賀源内が探鉱に訪れています.金は閃亜鉛鉱に伴う,
ひも状のものが大変有名である.
東京方面からなら国道140号線から中津川沿いの県道210号線に入り,秩父鉱山
方面と中津川林道の分岐で,中津川方面に向かう.ただ現在は県道210号線はダム
工事のため道が以前と変わっていることに注意が必要である.名古屋・山梨方面
からなら塩山市から雁坂トンネル経由が便利.
「彩の国ふれあいの森」の先をしばらく行くと右手に入る急坂があり,その上に
「炭焼き体験場」がある.この脇から沢に入り,ここを約10分ほど進むと石組みが
あり,左手には孔雀石が点々とする枯れ沢がある.ここを5分ほど登ればスカルン
塊や,坑道跡があるので,この附近一帯で採集を行う.
<交通>
最寄駅:秩父鉄道 三峰口駅 「中津川」行きバス利用 「出合」下車
C.採集鉱物
酸化鉱物1種,炭酸塩鉱物1種,燐酸塩鉱物1種,珪酸塩鉱物1種を採集した.
酸化鉱物
1.磁鉄鉱 magnetite
黒色金属光沢を持つ粒状結晶として産出.鉄の重要な鉱石の一つ.
名前の通り,磁性を持ち,なかでも磁力の強いものは天然磁石となる(例:大日
向鉱山産).大きな磁鉄鉱の鉱床はスカルン鉱床や漂砂堆積鉱床(すなわち砂鉄
鉱床)が多く,かつて日本でも各地で採掘された.
当産地の磁鉄鉱は光沢が強く,また結晶もしばしば自形を示すので,見応えの
ある標本である.
炭酸塩鉱物
2.孔雀石 malachite
主として緑色皮膜状で産出する銅の最も一般的な二次鉱物.藍銅鉱とは同質異
像の関係にある.多産する場合(二次富鉱体)では銅鉱石となる.この産地のも
のは若干青みの強いような気がする.
また当地では露頭への目印ともなる.
燐酸塩鉱物
3.燐灰石 apatite
主要な燐酸塩鉱物.燐酸カルシウムにハロゲンまたは水酸基が化合した化学式
で表される.当地のものは塩素燐灰石と言われる.水酸基を持つ燐灰石は人間の
歯の主成分となっている.モース硬度5の指標の石.
産状は非常に多岐にわたる.日本では,神奈川県玄倉の標本が有名だった.カ
ナダなどでは,日本のものからは想像も付かないようなカラフルな標本が産出す
る.当地ではスカルンの晶洞を埋めたり,その中に結晶する(晶出した時期が後
期)ものとして産出.筆者は,尖った頭付きの結晶を採集した.
珪酸塩鉱物
4.灰鉄輝石 hedenbergite
代表的なスカルン鉱物の一つ.鉄の代わりにマグネシウムが含まれるものが透
輝石で,マグネシウムの代わりにマンガンが含まれるものはヨハンゼン輝石とな
る(固溶体の関係).透輝石と同様,スカルン中に多く見られる.
当地では,柱状結晶が集まって産出する.
上記の鉱物以外にも,黄銅鉱,水晶,緑簾石などが確認できた.
D.おわりに
色々な体験の出来た良い巡検だったと思います.あの崖登りの辛さは二度と忘
れないと思います.皆さんお疲れ様でした.
それから最後になりましたが,詳しい資料を送って頂いたY氏にこの場を借り
て深く御礼申し上げます.
E.参考文献
松原聰・加藤昭(1982):鉱物採集の旅,(築地書館)
須藤和人(編)(1979):埼玉県地学のガイド,(コロナ社)
戻る