A.はじめに
私のHPを読んで頂いた船橋市のMさんからメールを頂戴した.最近,鉱物採集を始めて同
好会にも入ったという.何度かメールのやり取りをするうちにどこかに採集しに行こうという
事になり,比較的アクセスも良く見栄えのするマンガン鉱石の採れる茂倉沢鉱山に行くことに
した.今回はなんと一緒に行ったNSさんが鈴木石を採集するなど実りの多い採集であった.
B.産地及び交通
<産地>
群馬県桐生市にある茂倉沢鉱山は,東武桐生線新桐生駅の北東10kmほどのところに位置して
いる.茂倉沢という小さな沢沿いが産地となる.沢の中には,所々に真っ黒で重たいマンガン
鉱石が落ちている.これを叩き割り,ルーペで断面を観察しながら,沢を遡上する.
コンクリート製の橋が3箇所あるので,これを迂回し
たら,また沢に下りて進む.この間500mほどである.すると,2つの沢が合流している地点に
出るのでこれを左の沢に進む.300mほど遡ると,石組みと塞がれた旧坑らしいものがあります.
さらに100mほど先には大きなズリと坑道があるが,大したものは見つけられなかった.この旧
坑はかなりの大きさと奥行きがある.また,この付近には他にも幾つかの旧坑,試掘跡がある.
茂倉沢鉱山は,古生層中の層状マンガン鉱床であり,ある程度の変成作用を受けているよう
である.このことは沢の中に褶曲した岩があることから分かります.
茂倉沢鉱山周辺には,当産地以外にも朝日沢鉱山,上菱鉱山,穴切鉱山(いずれも桐生市)
などのマンガン鉱山があった(豊・青木 1996)が,現在全ての鉱山は閉山となっている.
ここで,層状マンガン鉱床について説明を加えますと,日本の,主に中生代,古生代の堆積
岩中(チャート,粘板岩などと密接に関係して産する.多く,それらの岩石中のレンズ状に堆
胚される)に存在する,マンガンの炭酸塩,酸化物,珪酸塩を主成分とする鉱床のことです.かつて
は,足尾山地,関東山地,丹波地方などに数多くのマンガン鉱山が稼行されていた.層状マン
ガン鉱床は,浅海で堆積した鉱床で,熱水活動が関連しているとされているが,なかには付近
に全く熱水活動の形跡の無い(ロシア連邦 ニコポル鉱山)ものもある.また,この種の鉱床
は各種の変成作用を受けている場合も多い.ここ茂倉沢鉱山は割合強い変成作用を受けている
ようである.
<交通>
最寄駅:東武桐生線新桐生駅 バス:「上菱」行き「梅田南小学校」または「上菱浄水所」下車.(本数は少ない)
C.採集鉱物
硫化鉱物1種,炭酸塩鉱物1種,酸化鉱物2種,珪酸鉱物1種,珪酸塩鉱物3種の計8種が
採集できた.
硫化鉱物
1.閃マンガン鉱 alabandite
硫マンガン鉱,アラバンド鉱とも称する.組成式 MnS.鋼灰色で金属光沢をもつが,やがて
黒変してしまう.硫化鉱物を含む鉱石を割ると,硫黄の臭いがするので,探し方の一つとなる.
なお,硫黄が過剰の条件下では,ハウエル鉱MnS2が作られる.青森県恐山で産出が知ら
れている.
炭酸塩鉱物
2.菱マンガン鉱 rhodochlosite
桃色ガラス光沢.へき開面が良く輝く.緑マンガン鉱,テフロ石などを伴う.今回は比較的大
きなヘキ開片を採集した.
酸化鉱物
3.緑マンガン鉱 manganosite
組成式 MnO.マンガンの価数は+2価.しかし空気中では+2価のマンガンは+4価に比べ不
安定で,すぐに空気中の酸素と結合してマンガン元素が+4価をとる二酸化マンガンになる.
緑マンガン鉱は,その名のとおり,新鮮な断面では鮮緑色を示すが,大方,1日です
っかり茶色くなる.ひどい場合には,数時間で茶色くなる.
茂倉沢鉱山では,緑色が一つのポイントとなっているので一瞬ドキッとさせられる.
緑色を残す方法としては,写真を撮るか,何かに密封すると良いでしょう.しかし,密封して
もそのうち茶色くなってしまうことも多いようです.樹脂に埋め込むという手法もありますが,
余り一般的ではないでしょう.
4.軟マンガン鉱 pyrolusite
マンガン鉱石の表面に,黒色酸化皮膜として産出.マンガン鉱石の目印となる.
珪酸鉱物
5.水晶 rock crystal
バラ輝石と共生し,空隙に小さな水晶が晶出.
珪酸塩鉱物
6.テフロ石 tephroite
マンガンかんらん石,灰マンガン鉱とも称する.鉄かんらん石,苦土かんらん石との間に,連
続固溶体を形成する.石英とは直接接して産出しない.帯青灰色で著しい脂肪光沢をもつ.
7.バラ輝石 rhodonite
層状マンガン鉱床の代表的な鉱物.茂倉沢鉱山のバラ輝石は,粗粒でルビー色を示すものも多
い.石英,菱マンガン鉱,テフロ石などと共生.なお,長島石,鈴木石は,石英をかんだ,バラ
輝石の中に産するようです.
8.鈴木石 Suzukite
鈴木石は,鹿児島県大和鉱山から発見された新鉱物原田石のバリウム置換体で,鮮緑色鱗状
〜針状結晶の集合体として,石英をかんだバラ輝石,菱マンガン鉱の鉱石中から見出された
(MATSUBARA. et.al. 1982).鈴木というのは北大の鉱物学科を育てた鈴木醇先生のことです.
鈴木石は非常に産出がまれな鉱物で筆者は過去2回当地を訪れているがいずれも空振りに終
わっている.今回NSさんが採集したものも肉眼では分からない位小さなものだが,それでも
ルーペで見ると独特の鮮緑色柱状がはっきりと観察できる.
D.おわりに
船橋のMさんとは初めての採集であったが,楽しんで頂けたようで非常に嬉しいものである.
しかし,筆者は改めて説明することの難しさを実感した面もあった.自分が勉強していること
でさえまだまだ十分な説明は出来ないものである.もっと,頑張らなくては.
またNSさんには,鈴木石を採集して頂くという幸運な出来事を見せてもらった.今度は自
分でも採ってみたい.是非また再チャレしましょう.<採集日2004/5/15>
E.引用文献
豊遥秋,青木正博(1996):“検索入門 鉱物・岩石”,(保育社)
MATSUBARA, S., KATO, A. & YUI, S.(1982):miner. journ.,11,15-20.
草下英明(1982):“鉱物採集フィールドガイド”,(草思社)