A.はじめに
当時,まだ鉱物採集を始めたばかりの私はいきなり大学受験の年を迎え,
そうそうあちこち出掛けられなくなると思い,ゴールデンウィークに母の実
家のある長野に行くついでにどこかで採集をしようと考えて,草下(1982)
の「鉱物採集 フィールドガイド」に載っていたこの川端下の水晶産地を訪
れることにした.なかなか大変な採集であったことを思い出しながら,最近
再び産地を訪れたのを参考に川端下の鉱物について述べることにしたい.
B.産地及び交通
<産地>
草下(1982)にも述べられているように川端下の水晶産地は標高2000m近
い山の中にあり,なかなか辿り着くのは容易ではない.筆者は川端下の集落
から林道に入り,林道の途中から踏み分け道に入ったが,入る道を間違えて
案の定迷った.その上地図を忘れて来てしまったらしい.仕方がないので,
どんどん登っていくと2時間ほどで山頂に出た.どうやら間違えて一つ北の
山の頂上に来てしまったようだ.気を取り直して尾根を南進するがしばらく
行くと,道がなくなって低木林の中を歩くようになったが,余りにひどいの
で,産地のある西側斜面へと少し下りながら進むことになる.すると踏み分
け道に出たので,ほっと一安心して休んでいると下から人がやって来た.話
を聞くとその方もこれから水晶産地に向かうらしく,ありがたくご一緒させ
て頂くことにした.そこから20〜30分の歩きであろうか,大きなズリに到着
した.ここが川端下の水晶産地である.水晶は本当にいくらでも転がってい
るので広い範囲でズリを表面採集したり,掘り返したりして良品を探すと良
いであろう.また古い坑道も幾つかあった.
<交通>
最寄駅:JR小海線 信濃川上駅
バス:町営バス「川端下」行き利用終点下車
C.採集鉱物
炭酸塩鉱物1種,珪酸鉱物1種,珪酸塩鉱物1種を採集した.
炭酸塩鉱物
1.方解石 Calcite
もっとも一般的な炭酸塩鉱物.結晶の形態も多く,400種以上の形がある
といわれる(もちろん晶系は変わらないが).この産地の方解石は水晶とは
反対に無色透明で美しいものが多く,本邦産のものとしては第一級であろう.
坑道内やその周辺には特に透明度の高いものがたくさん落ちている.
珪酸鉱物
2.水晶 Rock crystal
水晶は周囲の地質から考えると,地下深部から貫入してきた花崗岩体(接
触交代鉱床を形成した)からもたらされた熱水が周囲の岩石の割れ目に沿っ
て入り石英の脈を形成したものであろう.
この産地の水晶は白く濁っていたり,ひび割れ・表面の腐蝕しているもの
が多いが,その原因としては比較的高めの温度で水晶が成長したため,冷却
時にひび割れが生じ,結果,透明度が減少したことや流体包有物(水晶の内
部には水や二酸化炭素などの液体・気体が取り込まれている)の量が多い,
水晶の成長が複数回起こった(表面が溶かされた)などが考えられます.
長さ10cmを超えるような大きな水晶や平板水晶もある.案内していただい
た方はなんと日本式双晶らしい数cm大の水晶を採集した.
また,緑泥石等の鉱物を含むものも採集できた.
珪酸塩鉱物
3.曹柱石 Marialite
その名の通り,白色の柱状結晶の集合として産出する.灰柱石とは完全連
続固溶体をなす.ただし,表面は変質してピニ雲母 Pinite 化している部分
が多い.
D.おわりに
かなり前の採集の記事となってしまったが,ご容赦願いたい.最近再び川
端下を訪れたが,産地の様子は余り変わっておらず今後も成果の期待できる
産地である.
E.参考文献
草下英明(1982):”鉱物採集 フィールドガイド”,(草思社)