A.はじめに
3月に入り,気温も上昇してきて,春の気配が感じられるようになった.この気配は鉱物採
集を趣味とする者をフィールドへと駆り立てる作用も持っている.
第6回の東京に近い飯能市の岩井沢鉱山で惨敗した私は,再び新鉱物の採集を目論んで,今
度は新鉱物鈴木石,長島石の産出する桐生市茂倉沢鉱山を訪れることにした.鈴木石は,草下
(1982)に載っている鮮やかな緑の針状結晶を見て以来,頭から離れないからという理由もあ
った.
今回は5時間ほど,採集を行ったが鈴木石,長島石は採集できなかった.ここもいずれ再挑
戦します.
B.産地及び交通
<産地>
群馬県桐生市にある茂倉沢鉱山は,マンガンを目的に採掘された鉱山で,東武桐生線新桐生
駅の北東10kmほどのところに位置している.新桐生駅から上菱行きのバスに乗り,「梅田南小
学校」で下車する.道路の反対側に橋を渡る道があります.これを南に進んで行くと,やがて
広い道路(2車線)に突当たります.ここを左に曲がると,100mほどで林道の入口に出ます.
林道の入口の脇には,「林道茂倉沢線」と「茂倉のお釈迦様」の表示がある.林道に入り,
300mほど行くと,「お釈迦様 ここから1km」の表示とコンクリートの橋がある.車はここ
に止められる.「お釈迦様」の方へは向かわずに,沢の中には,所々に真っ黒いマンガン鉱石
が落ちている.沢に下りて,マンガン鉱石を叩き割り,ルーペで断面を観察しながら,遡上す
る.先ほどと同じコンクリート製の橋が3箇所あるので,これを迂回し
て,また沢に下りて進む.この間500mほどである.すると,2つの沢が合流している地点に
出るのでこれを左の沢に進む.300mほど遡ると,石組みと塞がれた旧坑らしいものがあります.
さらに100mほど先には大きなズリと坑道があるが,大したものは見つけられなかった.この旧
坑はかなりの大きさと奥行きがある.また,この付近には他にも幾つかの旧坑,試掘跡がある.
この付近は次回詳しく探査したい.
茂倉沢鉱山は,古生層中の層状マンガン鉱床であり,ある程度の変成作用を受けているよう
である.このことは沢の中に褶曲した岩があることから分かります.
茂倉沢鉱山周辺には,当産地以外にも朝日沢鉱山,上菱鉱山,穴切鉱山(いずれも桐生市)
などのマンガン鉱山があった(豊・青木 1996)が,現在全ての鉱山は閉山となっている.
ここで,層状マンガン鉱床について説明を加えますと,日本の,主に中生代,古生代の堆積
岩中に存在する,マンガンの炭酸塩,酸化物,珪酸塩を主成分とする鉱床のことです.かつて
は,足尾山地,関東山地,丹波地方などに数多くのマンガン鉱山が稼行されていた.層状マン
ガン鉱床は,浅海で堆積した鉱床で,熱水活動が関連しているとされているが,なかには付近
に全く熱水活動の形跡の無い(ロシア連邦 ニコポル鉱山)ものもある.また,この種の鉱床
は各種の変成作用を受けている場合も多い.ここ茂倉沢鉱山も変成作用を受けているよう
である.
また,日本ではこれらの堆積性マンガン鉱床に伴って,各種の新鉱物も発見されている.関
東周辺では桐生市茂倉沢鉱山の鈴木石,長島石,飯能市岩井沢鉱山の種山石,,奥多摩町白丸
鉱山の多摩石(東京都初の新鉱物),山梨県落合鉱山のマンガンパンペリー石がある.
<交通>
最寄駅:東武桐生線新桐生駅 バス:「上菱」行き「梅田南小学校」下車.(本数は少ない)
C.採集鉱物
硫化鉱物2種,炭酸塩鉱物1種,酸化鉱物2種,珪酸鉱物1種,珪酸塩鉱物3種の計10種が
採集できた.
硫化鉱物
1.黄鉄鉱 pyrite
緻密な灰褐色の鉱石(チョコレート鉱)中に最大3oほどの立方体自形結晶をなす.強い金
属光沢をもつ.
2.閃マンガン鉱 alabandite
硫マンガン鉱,アラバンド鉱とも称する.組成式 MnS.鋼灰色で金属光沢をもつが,やがて
黒変してしまう.硫化鉱物を含む鉱石を割ると,硫黄の臭いがするので,探し方の一つとなる.
なお,硫黄が過剰の条件下では,ハウエル鉱MnS2が作られるという.青森県恐山で産出が知ら
れている.
炭酸塩鉱物
3.菱マンガン鉱 rhodochlosite
桃色ガラス光沢.へき開面が良く輝く.緑マンガン鉱,テフロ石などを伴う.
酸化鉱物
4.緑マンガン鉱 manganosite
組成式 MnO.マンガンの価数は+2価.しかし空気中では+2価のマンガンは+4価に比べ不
安定で,すぐに空気中の酸素と結合してマンガン元素が+4価をとる二酸化マンガンになる.
緑マンガン鉱は,その名のとおり,新鮮な断面では鮮緑色を示すが,大方,1日です
っかり茶色くなる.ひどい場合には,数時間で茶色くなる.
茂倉沢鉱山では,緑色が一つのポイントとなっているので一瞬ドキッとさせられる.
緑色を残す方法としては,写真を撮るか,何かに密封すると良いでしょう.しかし,密封して
もそのうち茶色くなってしまうことも多いようです.
5.軟マンガン鉱 pyrolusite
マンガン鉱石の表面に,黒色酸化皮膜として産出.
珪酸鉱物
6.水晶 rock crystal
バラ輝石と共生し,空隙に小さな水晶が晶出.
珪酸塩鉱物
7.テフロ石 tephroite
マンガンかんらん石,灰マンガン鉱とも称する.鉄かんらん石,苦土かんらん石との間に,連
続固溶体を形成する.石英とは直接接して産出しない.帯青灰色で著しい脂肪光沢をもつ.
8.バラ輝石 rhodonite
層状マンガン鉱床の代表的な鉱物.茂倉沢鉱山のバラ輝石は,粗粒でルビー色を示すものも多
い.石英,菱マンガン鉱,テフロ石などと共生.なお,長島石,鈴木石は,石英をかんだ,バラ
輝石の中にくるようです.
9.ロスコー(バナジン)雲母 loscoelite
バナジウムを含む雲母族鉱物.白雲母のAlの一部をV(バナジウム,特殊鋼や硫酸製造に使わ
れる)が置換した形の式になっています.灰緑色板状でガラス光沢を持つ.今回の採集品では,
ロスコー雲母とは言い切れないので,次回,しっかりしたものを採集したい.
なお,茂倉沢鉱山の目玉の鈴木石,長島石について,書いておきます.
MATSUBARA & KATO(1980)によると,長島石はバリウム―バナジウムを含む珪酸塩に関連し
た塊状バラ輝石の鉱石から,緑をおびた黒い柱状の結晶の集合として見出されたタラメル石の
ヴァナジウム置換体のサイクロ珪酸塩鉱物である.なお,長島とは,日本希元素鉱物の発展に
尽力した長島乙吉氏の名誉に対して献名されたものである.
一方,鈴木石は,鹿児島県大和鉱山から発見された新鉱物原田石のバリウム置換体で,鮮緑
色鱗状〜針状結晶の集合体として,石英をかんだバラ輝石,菱マンガン鉱の鉱石中から見出さ
れた(MATSUBARA. et.al. 1982).原田,鈴木はいずれも北大の鉱物学科を育てた原田準平と
鈴木醇の両先生のことです.
D.おわりに
奥多摩鉱山,岩井沢鉱山に続く,マンガン鉱山探査だった.今回,鈴木石,長島石は採集で
きなかったものの,各種のマンガン鉱物を採集できた.次こそは鈴木石,長島石を採集したい
と思います.
E.引用文献
豊遥秋,青木正博(1996):“検索入門 鉱物・岩石”,(保育社)
MATSUBARA, S. & KATO, A.(1980):miner. journ.,10,122-133.
MATSUBARA, S., KATO, A. & YUI, S.(1982):miner. journ.,11,15-20.
草下英明(1982):“鉱物採集フィールドガイド”,(草思社)