注意:小滝のヒスイは国の天然記念物に指定されており,観察のみ可能
です.
A.はじめに
夏に糸魚川を訪れた際には,吸血アブの猛攻に耐えかねてすぐさま帰ってしまったのが心
残りだったので,少し暑さも落ち着いたので,友人を誘い,北陸巡検を行うことにした.ひ
すいだけだと外す可能性も大きいので,古生物のI氏に化石分野を任せ,石川県まで足を延
ばし,緑鉛鉱の採集も合わせて行うことにした.
日本では縄文時代,弥生時代には宝飾品などにひすいが多く用いられていたが,奈良時代
以降全く利用されなくなり,ひすいの産出は一度は歴史の中に埋もれることになった.しか
し,1938年(昭和13年)に糸魚川市小滝の住民が小滝川土倉沢でひすいらしい岩石を発見し,
東北大学理学部の河野義礼によって研究され,ひすいであることが示された(河野,1939).
その後,糸魚川以外にも北海道から九州まで10箇所程度のひすい産出地があることが分か
った.だが,中でもこの糸魚川地域のひすいは存在量・見た目の美しさのどちらから見ても
日本で最高のものにランクするものである.
B.産地と交通
<産地>
産地は糸魚川市小滝に位置する.同市内の橋立ひすい峡と並んで見事なヒスイが多く見ら
れる事で有名である.国の天然記念物に指定されているため,採集は出来ないが,観察は自
由にすることが出来る.
<交通>
糸魚川市市街から国道148号線を経由して小滝方面へ向かう.
またJR糸魚川駅から定期観光バスが6月〜11月上旬の土曜・日曜・祝日が運行されている.
JR大糸線小滝駅からの無料シャトルバスも運行されている(運転日要確認).
C.観察した鉱物
1.ひすい輝石
ひすいと言うのは「硬玉」と「軟玉」の総称であり,一般的
にいうヒスイとは「硬玉」のうち,ひすい輝石というナトリウムを含んだ珪酸塩鉱物である.
硬度は6であるが結晶構造が堅牢で割れにくい.また比重も3.2〜3.5とやや高い.色は白,
灰,緑,青,紫,黒と様々である.発色原因としては微量元素の存在や他の鉱物の存在が考
えがなされてきたが,近年の研究では緑色部分はオンファス輝石 (Ca, Na)(Mg, Al, Fe)Si2
O6 とする説が有力である.
この地域は蓮華帯と呼ばれる古生代の高圧変成帯であり,青海川沿いのひすい輝石岩(橋
立ヒスイ峡),蓮華変成岩(緑れん石角閃岩相〜角閃岩相),湯ノ谷の蓮華変成岩(緑れん
石青色片岩相〜エクロジャイト相),小滝川沿いのひすい輝石岩(小滝ヒスイ峡),超苦鉄
質岩などが観察される.ひすい輝石は低温高圧で生成する鉱物で,海洋地殻が海溝で大陸地
殻の下に潜り込む,沈み込み帯において,地下20〜30kmの地点で出来ると考えられているも
のである.ただ,糸魚川地域のひすいの産状にはまだ多くの未解明な点があり,今後の研究
の進展が期待される.
D.終わりに
近頃,新聞紙面などでヒスイ盗掘被害の対応策として原石を市内に輸送して保護するとい
う記事を何度か見た.本来は自然のものなので,そのままの状態を保持するのが良いとは感
じるが,監視員の配置など様々な問題がある以上仕方のないことなのだろう.
なお糸魚川市街の文化会館には移送されたひすいの大塊の一つが置いてある.筆者は幸い
にも,2007年にこの地域の鉱物の第一人者である宮島宏氏にそのヒスイ塊の説明を頂く機会
があった.そのヒスイには紫色の糸魚川石の細脈が随所に見られ,一見の価値のあるもので
ある.