最初の聖戦

2003118()

 そう、この日がやってきた。今日のこの聖戦のために、私は毎日とは言わないが、時々血のにじむほどでもない練習をしてきたのだ。途中、しんどくなったらピアノの前から去ってはテレビを見たりお菓子を食べたりしながら聖戦に備えてきたのである。以下、聖戦の記録である。ただし、自分のことで精一杯でほかのバンドは見ていないので、この記録は基本的に自分のことのみを記録したナルシズムの記録である。

 まず、岐阜県出身のベーシスト、大阪府出身のギタリスト、奈良県出身のドラマー、アメリカ出身の私で組んだオレンジレンジをやるバンドの出演だった。奈良県出身のドラマーがラテンのビートを情熱的にたたき始めると、大阪府出身のギタリストが重低音のハードコアでクラシカルな旋律を交錯させる。その後、すかさず岐阜県出身のベーシストが華麗にライトハンド奏法をする横で私がニヤニヤしながら見ていると観客のテンションは一気に上昇。スタジオ練習時はどうなることかと思ったが、ショーは大成功かと思われた。

 さて、「夢劇場」の出番であった。ドラムのシンバルのセッティング位置が高い、キーボードがモノラルでしか出力できない、モニターがない、ドラマーが髪の毛剃っちゃったなどのトラブルに見舞われてスタートしたこの聖戦。楽曲が楽曲なだけに、私が終始気を使ったのは、いかに練習時の平常心を保つかということ。演奏、パフォーマンス、ライブ自体を大成功させたいという気持ちはとても強い。私は、今までいろいろなバンドでライブをしてき、いろいろな音楽、いろいろな状況に置かれたが、いつも共通して思っていたことは、「よいライブをしたい。皆さんが見て何かしら刺激を受けるものをやりたい。」ということであった。そのために、理想的には「演奏は完璧に。」であり、その理想を実現できると信じては本番敗北の連続であった。その間、音楽とは別次元での浮き沈みもあり、音楽のみでは自分は最高でなければならないと、さらに気負うようになってきた。そして、敗北の度合いは増してきた。そして、気づいたことが次の三つだ。

1.       気合はあったが、練習は、ただ得意なことを好きに弾くだけのオナニーだったということ。(もちろん曲を仕上げることはやっていたが、深くつめずに妥協していた。)

2.       それなのに、本番は実力の2倍ものことをやろうとすること。

3.       他人へのコンプレックスから、自分は音楽の最高峰でなければならないと誇大妄想を抱いていたことと、それが自分のライブを「他人を楽しませる行為」ではなく「他人を潰そうとする行為」になっていたこと。

まあ、簡単に言えば上の三つということだ。今回「夢劇場」でライブをやるということに決まった時、「妥協を極力排除し、自分を期限内にできるかぎり伸ばす練習」と同時に「本番直前になっても出来ないフレーズは思い切って簡略化すること」を実践することを決めた。そして、それ以上に大切にしたことは「とにかく、何が何でも平常心を保つこと。」だった。そのためには、「本番は失敗する」という前提からスタートした。絶対成功させたいといっても、100パーセント成功させられる術はない。それでも、なお失敗するリスクを背負ってなぜやるか。それは、ドリームシアターのフレーズをこの手で弾きたいからであり、弾ききったときに出来ればちょっとだけモテたいなあみたいな感じ?失敬、言葉が会話調になってしまったよ。その思いを確認した後、過去の敗北の中でましな敗北だったライブを思い出してみると、いつも妙なこだわりを持たずに臨んだライブであった。そう、今回妥協のない(少ない)練習をしてきたし、あれだけ時間を割いたのだ。脳みそより、フレーズをしみこませた自分の体を信頼するのだ。迷いは吹っ切れた。

 本番、「Overture 1926」が始まる。この曲は、やる曲の中では自信のない方であったが、自然に身をまかせると大きなミスはなく、不思議と清い心地でいられた。聖戦だ。やる前は、鍵盤を凝視してあたりを見回してる余裕などないと思っていたのに、「strange déjà vu」に入るさいに観客席からダッシュしてくるCrazy KTを見て笑う余裕があった。彼が出てくるのが若干遅かったので間に合うかハラハラした。その他、結構テクニカルなフレーズもあったのだが、こんなにも無事で弾きこなせるとは思ってもいなかった。観客もメタル好きが前に来て見てくれてうれしかったし、関西弁をしゃべるドリームシアター好きのアメリカ人にも感謝だ。この日の聖戦は、確実にドラゴンの一匹や二匹打倒したと思う。すばらしい日であった。家帰ってからは、もうしばらくやることがないという感じで若干さみしくなった。

 まあ、えらそうに精神論かましたが、たかが学祭よ。たかが、学祭。プーして、ブリッ、ビチビチビチ・・・ジョーッとしておけばよいのだよ。しかし、数ヵ月後の「夢劇場」の二回目の聖戦もよろしくね。

Written by Kimberly Chang

Translated by koichi kimuRa