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ザク限定コンペ2003・秋冬物
匿名希望さんの作品

もうひとつの戦場


「被弾したザク1機、着艦するぞ!」
「第5整備班はハンガー定位置に待機!」
半ばわめきに近い声がザンジバル級機動巡洋艦「シュヴァルツ・アクスト」ハンガー付近に響く。
ソロモン宙域の戦闘は終焉に向けてプロローグを奏で始めていたが、要塞付近での待機任務を命じられていた「シュヴァルツ・アクスト」は被弾などで戦闘能力を失ったMSの回収を行いつつ、要塞に接近する連邦MSを撃退するという二面作戦を強いられていた。

「ひどいものだ・・・。」
崩れ落ちるように着艦したMS-06F「ザクII」を一目見た瞬間、ヘンリ・ウィラム整備主任は思わず口を開いていた。
左脚部は大腿部から完全に失っており、なおかつ頭部にはレーザー兵器によると思われる焼け焦げた跡が生々しい戦闘の惨劇を物語っている。

「主任!」
後ろからかけられた若い声にウィラムは180度身体の方向を変えた。視界の取り難い整備員用のノーマルスーツでは、振り向くことさえ出来ない。
「シノダか。」
「主任、あのザク、どうしますか?」
シノダと呼ばれた若い整備兵は、命令を待つ体勢を取っている。学徒動員で前線に送られた、まだ18歳の若者ではあるが、技術系のハイスクールに通っていただけあり、整備班の若手の中では頭一つ抜け出した仕事をこなしていた。

「左脚部は根っこから交換が必要だ。頭も取り替えたほうがいいんだが・・・」
ここまで言って、ウィラムは苦笑する。既に「シュヴァルツ・アクスト」に残された資材は少ない。最も多く量産されたMS-06Fといえども、この艦に残されたパーツはほぼ使い切っているはずであった。

「クラウス、お嬢さんの義足はありそうか?」
インコムを通して、整備班の資材担当に声をかける。
「ダメです、主任。義足どころか、頭蓋骨ひとつ残っちゃいませんよ」
無線を通して資材担当の声を聞いたウィラムは大きくかぶりをふった。
「仕方ない、アノ子は引退するしかないな・・・」

その時、圧搾空気の噴出とともに、ザクIIのコックピットハッチが開いた。周囲に群がっていた整備員がやや距離を置き、パイロットが出るのを待つ。疲労困憊したパイロットを支えるのも彼らの仕事だ。

ゆっくりと外に出たパイロットは、付近にいた整備兵に近づくなり、ヘルメットを接触させている。何か言っているのであろう。ウィラムは無線のチャンネルを整備班共通の周波数に切り替えた。

「直るのか、直らないのか! はっきり言ってくれ!」
ウィラムの耳に飛び込んできたのは、若い女性の声であった。ウィラムは思わず「ほぉ・・・」とつぶやいたのだが、整備員のヘルメットを通してパイロットにも聞こえたようであった。

「誰か聞いてるのか! 誰でもいい! こいつを直してくれ! わたしにはまだやらなきゃならないことがあるんだ!」
ややヒステリックではあるが、このMSへの愛着は感じられる、悲痛な叫びであった。
「まあ、落ち着いてください。それは我々が判断することですから・・・。」
ウィラムはパイロットの方へと移動するため、床を軽く蹴った。無重力空間での移動にはそれなりの慣れが必要ではあるが、ウィラムにとって、それは普通に歩行することと同じであった。

ザクのパイロットは整備主任の腕章をつけたウィラムを見つけるなり、捕まえていた整備員から離れた。下っ端にいくら話しても無駄だと感じたのだろう。

「整備主任だな。キミの目から見て、わたしのMSは直るのか?」
「少尉殿、残念ながら、本艦の資材は底をついております。」
ウィレムは敬礼しつつ、彼女のノーマルスーツにつけられた階級章を見てから、そう声をかけた。
「つまり、無理だと言いたいわけか。」
少尉の声は冷たくウィラムの鼓膜を叩いた。
「対策がないわけでもありません。」
「聞かせてもらおう。」
「・・・操縦性はかなり損なわれることになりますが、それでもよろしいですか?」
一瞬、少尉の動きが止まる。熟練したMSパイロットでも、じゃじゃ馬になった機体に命を預けることは、相当な覚悟が必要なのだ。彼女の戸惑いは誰も責める事は出来ない。
「それでも構わない。対策を聞かせてくれ。」
半ば諦めかけた声で少尉は言った。
「左脚部を完全に撤去します。これによってスラスター噴射のタイミングが非常に微妙なものになります。また、頭部についてですが、損壊した部分を柔軟材で埋めます。電子回路とモーターさえ生きていれば、モノアイも稼動は出来ると判断します。」
ウィラムの宣言は、少尉にとって予想できるものだったのだろう。ゆっくりとうなずいた。
「これでもMSパイロットのはしくれだ。それくらいのことは出来る。それよりも・・・。」
「それよりも?」
「その作業にどれくらいの時間がかかる? できるだけ早く戦線に復帰したいのだ。」
「善処しましょう。少尉殿はそれまで休息しておいてください。」
ウィラムは心の中で「焦りは禁物なんだがな・・・」とつぶやいたが、口には出さなかった。
「作業が完了したら連絡してくれ。わたしはエレア・カイン少尉だ。」
「第5整備班主任、ヘンリ・ウィラム伍長であります。ご命令、しかと承りました。」
そこまで言って、ウィラムは再び敬礼の姿勢を取る。カイン少尉も軽く敬礼をしてからハンガー上部の通路に移動していった。

「さて、これからがオレ達の戦いだ。」
ウィラムの目に半壊したザクIIが見える。逼迫した戦況の中、1機でも多くのMSを戦場に戻すことが、彼ら整備班の誇りなのだ。
「第5整備班全員に告ぐ! ハンガー内のお嬢さんの手術だ! 大急ぎでやれよ!」
ウィラムの声に、整備員たちから「おお!」という声が聞こえる。ウィレムは指示を出しつつ、ゆっくりとザクIIに近寄っていった。

「待ってろよ。ちょいと荒っぽいやり方だが、必ずお前さんを自由に動けるようにしてやるからな・・・。」


人間が人間を殺しあうのではなく、人間が機械を生き返らせる、そんな小さな戦いが始まろうとしていた・・・。



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